アトピー性皮膚炎① アトピー性皮膚炎とは?診断と治療の実態は?

富山県 扇谷医院で皮膚科の診療を行っている扇谷咲子です。
今回そして次号の2回にわたり、アトピー性皮膚炎についてご紹介致します。
皮膚科の外来診療をしていると、問診票の「すでにお持ちの疾患欄」に「アトピー性皮膚炎」をチェックする方は多いのですが、本当に診断基準を満たす方は少ないのが現状です。
“自称アトピー”だと思っている間違った認識の方が多いなと、日々の診療で感じています。
1. アトピー性皮膚炎とは
「改善や悪化を繰り返す、そう痒(そうよう)のある湿疹を主体とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」
・皮膚が乾燥していてバリア機能異常をおこしているため、様々な刺激やアレルゲンの影響を受けやすい
・ 慢性的な疾患ですが、適切な治療を受ければいずれ治ったと同様の状態になることが期待されます
2. アトピー素因とは
家族にアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎・結膜炎などの人がいる場合、その体質を受け継いでアレルギー症状を起こしやすくなることがあります。
また、本人もアトピー性皮膚炎以外の前述のアレルギー疾患の既往があると、アレルギーを起こしやすい体質と考えられます。
この体質のことを指します。
3. アトピー性皮膚炎と診断するには
① 痒みがある
② 特徴的な皮疹(例えば、皮膚表面が赤く腫れる。フケのように皮膚がポロポロ落ちるような状態である、皮膚がゴワゴワとし、厚く硬くなってしまった状態など。)を呈する
③ 特徴的な左右対側性の皮疹を呈する
④ 慢性・反復性の経過をたどる(乳児では2か月以上、その他では6か月以上を慢性と定義)
上記を満たすこと、が診断基準です。
逆に言えば、上記を満たしていないと「アトピー性皮膚炎」ではなく、「アトピー様皮膚炎」「アトピーっぽい湿疹」「乾燥性湿疹」「皮脂欠乏性湿疹」等であり、いわゆる「湿疹」です。
4. 治療方針
アトピー素因、体質を変えることは難しいです。そこで、日本皮膚科学会が提案する治療目標は、下記です。
・症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持すること
・このレベルに到達しない場合でも、急な悪化がおこらない状態を維持すること
私は、患者さんには「乾燥しやすい肌質は持って生まれたものです。
目標は保湿のみでコントロールできることですが、季節の変わり目や、体調が悪い時や疲れているときに多少の皮膚症状の波があるのは仕方がないです。
そういう時は悪化部位に適切なレベルのステロイド剤やタクロリムス軟膏を併用しましょう」と説明しています。
5. ステロイド剤って怖いの?
よく「ステロイドは使いたくないです」「やめられなくなると聞いて怖い」という患者さんの声を耳にします。
でも、ステロイドは、元々、人の臓器(副腎)から分泌されるホルモンの一種を治療薬として利用できるようにしたものです。
漫然と使用せず、上手に使用すると、抗炎症作用により湿疹を長引かせずによくすることが期待できます。
極力副作用をおこさず、どういった症状にどのレベルの強さのステロイド剤を使用するか、というのを見極めるのが大切です。
その手助けを皮膚科医が担っています。
まとめ
アトピー性皮膚炎という病気を正しく理解して、まずは、ご自身や家族が、本当にアトピー性皮膚炎か診断をつけることが大切です。
そして、アトピー性皮膚炎の方は、多少の病状のアップダウンに一喜一憂せず、病状を軽くおさめる対症療法が大切です。
基本は保湿、悪化部位は状態にあったステロイド剤などを上手に使用して局所の炎症をおさえていきましょう。
保湿の大切さや、悪化原因などは次号で紹介します。